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第084-1話 見かけは優等生

Author: 百舌巌
last update Last Updated: 2025-04-24 11:11:06

大串の家の近所。

「いいえ、別に友達ではありません……」

 ディミトリは警戒して言っているのでは無い。本当に友人だとは思って居ないのだ。

「でも、田口のツレの家から出てきたじゃねぇか」

 男の一人が大串の家を顎で示しながら言った。

 これで男たちが田口を尾行して、彼が大串の家を訪ねるのを見ていたと推測が出来た。

「学校でクラスが同じなだけです……」

 ちょっと、面倒事になりそうな予感がし始め、ディミトリは警戒感を顕にしていた。

「ちょっと、オマエに頼みたいことが有るんだ」

 男が手で合図をすると車が一台やって来た。やって来たのは白の国産車だ。

 大串たちの話ではグレーのベンツだったはずだが違っていた。

「ちょっと、付き合ってくれ」

 開いた後部ドアを指差した。

「クラスの連絡事項を伝えに来ただけで、僕は無関係ですよ?」

 妙齢のお姉さんであれば喜んで乗るのが、おっさんに誘われて乗るのは御免こうむるとディミトリは思った。

「田口に届け物を渡して欲しいんだよ」

「それなら、おじさんたちが直接渡したらどうですか?」

 ディミトリは尚もゴネながら逃げ出す方法を考えていた。

「良いから。 乗れって言ってんだろ?」

 ディミトリを知らないおっさんは頭を小突いた。瞬間。頭に血が上り始めた。

(くっ……)

 だが、人通りもあって我慢する事にしたようだ。今はまだディミトリは冷静なのだ。ここで、喧嘩沙汰を起こすと警察が呼ばれてしまう。それは無用な軋轢を起こしてしまう。

 それに相手は中年太りのおっさんが三人。ディミトリの敵では無い。チャンスはあると思い直したのだった。

(周りに人の目が無ければ、コイツを殺せたの……)

 ディミトリは残念に思ったのだった。

 こうして、ディミトリは大串の家から出てきた所を拉致されてしまった。

 連れて行かれたのは中途半端な繁華街という感じの商店街。端っこにあるナイトクラブのような地下の店に連れ込まれた。

 まだ、開店前らしく人気は無かった。その店の奥にある事務所に連れ込まれた時に、白い粉やら銃やらをこれ見よがしに置かれているのを見かけた。

(ハッタリかな……)

 まるで無関係の奴に見せても益が無いはずだ。ならば、ハッタリを噛ませて言うことを効かせようという魂胆であろう。

 ヤクザがやたら大声で威嚇するのに似ていた。

「よお、坊主…… 済まないな……」

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    大串の家の近所。「いいえ、別に友達ではありません……」 ディミトリは警戒して言っているのでは無い。本当に友人だとは思って居ないのだ。「でも、田口のツレの家から出てきたじゃねぇか」 男の一人が大串の家を顎で示しながら言った。 これで男たちが田口を尾行して、彼が大串の家を訪ねるのを見ていたと推測が出来た。「学校でクラスが同じなだけです……」 ちょっと、面倒事になりそうな予感がし始め、ディミトリは警戒感を顕にしていた。「ちょっと、オマエに頼みたいことが有るんだ」 男が手で合図をすると車が一台やって来た。やって来たのは白の国産車だ。 大串たちの話ではグレーのベンツだったはずだが違っていた。「ちょっと、付き合ってくれ」 開いた後部ドアを指差した。「クラスの連絡事項を伝えに来ただけで、僕は無関係ですよ?」 妙齢のお姉さんであれば喜んで乗るのが、おっさんに誘われて乗るのは御免こうむるとディミトリは思った。「田口に届け物を渡して欲しいんだよ」「それなら、おじさんたちが直接渡したらどうですか?」 ディミトリは尚もゴネながら逃げ出す方法を考えていた。「良いから。 乗れって言ってんだろ?」 ディミトリを知らないおっさんは頭を小突いた。瞬間。頭に血が上り始めた。(くっ……) だが、人通りもあって我慢する事にしたようだ。今はまだディミトリは冷静なのだ。ここで、喧嘩沙汰を起こすと警察が呼ばれてしまう。それは無用な軋轢を起こしてしまう。 それに相手は中年太りのおっさんが三人。ディミトリの敵では無い。チャンスはあると思い直したのだった。(周りに人の目が無ければ、コイツを殺せたの……) ディミトリは残念に思ったのだった。 こうして、ディミトリは大串の家から出てきた所を拉致されてしまった。 連れて行かれたのは中途半端な繁華街という感じの商店街。端っこにあるナイトクラブのような地下の店に連れ込まれた。 まだ、開店前らしく人気は無かった。その店の奥にある事務所に連れ込まれた時に、白い粉やら銃やらをこれ見よがしに置かれているのを見かけた。(ハッタリかな……) まるで無関係の奴に見せても益が無いはずだ。ならば、ハッタリを噛ませて言うことを効かせようという魂胆であろう。 ヤクザがやたら大声で威嚇するのに似ていた。「よお、坊主…… 済まないな……」

  • クラックコア   第083-2話 体質の問題

    「それでマンションに忍び込んで、各階の電線を盗みまくっていたらしいんだけど……」「マンションって屋上にエレベーターの機械室があるじゃん?」「ああ」「そこに入った時に鞄が落ちてたんだそうだ」(いや、それは隠してあると言うんじゃないか?) ツッコミを入れたかったが話を済ませたかったので続きを促した。「工事道具を置きっぱなしにしたものかと思ったんだよ」 鞄の上部にスパナやレンチなどの道具が入っていたそうだ。それで勘違いしたらしい。 こんな物でも故買屋は引き取ってくれるのだそうだ。「それで儲けたと思って鞄と電線を持って帰ってきたんだ」(何故、その場で確認しないんだ……) チラッと見ただけで済ませたらしい。ディミトリのように疑り深い奴なら鞄をひっくり返して中身を確かめるものだ。「でもって、車に戻って中身を全部見たら、拳銃と白い粉が入っていたんだよ」 そのセットはどう考えても犯罪組織に関わり合うものだ。「どう考えても様子がおかしいから、兄貴たちはビビっちまってロッカーに隠したんだってさ」 元の場所に戻しに行こうとしたが、車がやって来るのが見えたので慌てて逃げたらしい。(受け渡しの途中だった可能性が高いな……) 金と物の交換を別々の場所で行い、お互いの安全を図る方法だ。警察の手入れを受けても金だけだと検挙出来難いからだ。 何度も取引をしている組織同士なら安全を優先するものだ。 普通は見張りを配置しておくものだが、それが無かった様子だった。何らかの事情で人手不足だったのかも知れない。「その時には周りに何も無かったらしい」(でも、見落としがあったから今の状態だろうに……)「安心していたら何日か経ってから監視されるようになったんだよ」(所詮は素人が見回した程度だからな……)(時間が掛かったのは監視カメラか何かに映っていたのか?) 恐らくは車などに積まれているドライブレコーダーから足が付いたのではないかと考えた。廃墟のマンションに防犯カメラは設置されていない可能性が高いからだ。「で、具体的に何か言って来たのか?」「いや、ただ付けられただけみたい……」 要するに何もされて居ないのに、勝手に怖がっているだけのようだ。ディミトリは呆れてしまった。「何かしてくるようなら、その時に相談に乗るよ……」 何も要求されていないのなら、何も言う

  • クラックコア   第083-1話 小遣い稼ぎ

    放課後。 その日一日を平穏無事に済ませたディミトリは帰り支度をしていた。そこに大串が再びやって来た。「なあ……」「行かないよ?」 大串の思惑が分かっているディミトリは素っ気無く言った。「まだ、何も言ってないじゃん……」「田口の兄貴に関わる気は無いよ」「じゃあ、せめて田口の話だけでも聞いてくれよ」「そう言えば今日は田口が来てないな……」 ディミトリが周りを見渡しながら言った。興味が無かったので田口が居ないことに、その時まで気が付かなかったのだ。「ああ、放課後に俺の家に来ることになっている」「そうなんだ」「お前が田口の家に行かないと言ったら、俺の家で相談に乗って欲しいって言ってきたんだよ」「だから、面倒事に関わる気は無いんだってば」「いや、アドバイスだけでも良いと言ってる」「……」「かなり困っているみたいなんだよ」「なんだよ。 情け無いな……」 大串の説得に話だけでも聞いてやるかとディミトリは思った。 それでも手助けはやらないつもりだ。迷惑を掛けられた事はあるが助けてもらった事など無い。いざとなったら、誰かが助けてくれるなどと考えている甘ちゃんなど知った事では無いのだ。(悪さするんなら覚悟決めてやれよ……) そんな事を考えながら、大串と連れ立って彼の家に向かう。 ディミトリはその間も通る道を注意深く観察していた。彼には警察の監視が付いていたはずだからだ。 ところが最近は見かけないと言っていた。恐らく公安警察の剣崎と対峙したあたりから監視が外れているようだ。 ディミトリには何故剣崎が自分を捕まえないのか分からなかった。(まあ、面倒臭そうなら剣崎に投げてしまう手もあるな……) 剣崎が冷静を装ったすまし顔を困惑するのが浮かぶようだ。ディミトリは少しだけほくそ笑んだ。 大串の部屋に入ると田口が暗そうな顔をして座っていた。「やあ」 ディミトリはなるべく明るめに挨拶をしてやった。 まずは話を聞くふりをする必要がある。マンションに忍び込んだ様子から聞き始めた。「兄貴たちは銅線を集めにマンションに行ったんだ」 田口が話している廃墟マンションは何処なのかは直ぐに分かった。 川のすぐ脇にある奴で何年も工事中だったと話を聞いている。工事をしている業者が倒産してしまい、途中で放棄状態になっているマンションなのだ。 そこに田口

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